2018年03月12日

DV男性が被害者役をVRで体験すると、女性の恐怖顔の認知力が上昇


配偶者暴力・夫婦間暴力・恋人間暴力(Domestic Violence,DV)をする男性は女性の恐怖表情の認知が苦手で、彼らがバーチャルリアリティー(Virtual Reality,VR)で被害者の女性になって言語的暴力や身体的暴力を経験すると、女性の恐怖表情の認知力が向上する、という研究があります。また、DVをする男性は、女性/男性の恐怖表情を幸福(笑顔)だと判断するバイアスが高く、このバイアスもVR体験後に低下するそうです。

Seinfeld, S., Arroyo-Palacios, J., Iruretagoyena, G., Hortensius, R., Zapata, L. E., Borland, D., de Gelder, B., Slater, M., & Sanchez-Vives, M. V. (2018). Offenders become the victim in virtual reality: impact of changing perspective in domestic violence. Scientific Reports, 8:2692. doi:10.1038/s41598-018-19987-7.

アメリカの株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント研究開発部門、バンガー大学心理学部、ウェールズ認知神経科学研究所、ノースカロライナ大学チャペルヒル校ルネサンス計算機科学研究所(Renaissance Computing Institute,RENCI)、スペインのオーガスト・ピー・イ・スニェール生物医学研究所(Institut d’investigacions Biomèdiques August Pi i Sunyer,IDIBAPS)システム神経科学部門、バルセロナ大学臨床心理学精神生物学研究室神経科学技術実験仮想環境(Experimental Virtual Environments for Neuroscience and Technology,EVENT)実験室、オランダのマーストリヒト大学心理学神経科学部認知神経科学研究室脳情動実験室の研究者による論文です。

以下の2群の男性が実験に協力。

DV群:スペインの法律制度で女性に対する攻撃行動を行い、DV介入プログラムを受けるよう判決のあった男性20人のデータが解析に有効となりました。

統制群:DV歴がない男性19人のデータが解析に有効となりました。DV群と年齢、教育水準、国籍、職業状態をマッチング。

情動認知課題は顔-身体混成テスト(Face-Body Compound test,FBCテスト)。VR経験の前後に実施。顔-身体混成刺激は顔情動と身体情動が一致するもの(例:怒り顔と怒り身体表出)と不一致のもの(例:幸福顔と怒り身体表出)を用意。顔-身体混成刺激というとなんだか難しそうですが、要するに顔も映った全身写真のことです。

FBCテストは、顔が恐怖または幸福の刺激であるブロックと顔が怒りまたは幸福の刺激であるブロックから成りました。いずれのブロックでも顔-身体混成刺激を提示する試行だけでなく、顔だけ呈示する試行も実施。顔だけ呈示する場合は、身体に相当する部分を灰色の背景色とし、身体の輪郭が分からないようにしました(顔の大きさと位置は顔-身体混成刺激と同じ)。

FBCテストでの反応は強制2選択肢で、顔の表情が幸福なのか恐怖(または怒り)なのか判断するよう求めました。その際、身体情動は無視するよう教示しました。刺激提示時間は100 ms、反応後の固視十字点は750 ms〜 1250 ms。各ブロックにつき、表情2種類×身体情動3種類(身体を提示しない場合も含む)×被写体10人(男性5人,女性5人)の計60枚の写真をランダムな順序で2回提示。

VR体験の前に社会的望ましさ尺度(Social Desirability Scale,SDS)スペイン語版で、質問紙への回答が社会的に望ましい方向に傾く反応バイアスを計測。結果を先取りすると、統制群よりもDV群の方が社会的望ましさバイアスが強くなりました。社会的望ましさバイアスの影響を免れないため、共感特性の指標の対人反応性指標(Interpersonal Reactivity Index,IRI)得点とVR質問紙への回答はデータ解析から外しました。

VR実験のために、参加者はヘッドマウントディスプレイ(Head Mounted Display,HMD)とヘッドホンを装着。参加者は全員男性でしたが、仮想空間では全員女性の身体をしていました。仮想空間には全身が映る鏡が設置されており、男性参加者はバーチャル世界で女性の身体をしていること及びその動作を視認でき、バーチャル女性の動きは参加者の動きと同期していました(視運動同期)。バーチャル世界ではテーブルにラジオと電話機が置いてありました。

バーチャル空間や女性のバーチャル身体に慣れてもらうため、参加者にはバーチャル鏡の前で周囲を見渡し身体を動かすよう求めました。また、自分の身体を見下ろし、第一人称視点でバーチャル身体を調べられることを確認させました。

次にバーチャルボールが仮想世界に4個登場し、それらに触れるよう要求し、3回繰り返しました。これはバーチャル身体の所有感錯覚を高めるために行いました。

次にバーチャル鏡を見るのを止めて、バーチャルの男性が部屋に入ってくるのを見ました。男性は「何て醜い恰好をしているのか、自分で分かっているのか?」などとバーチャル女性に言語的暴力を振るいました(約3分20秒)。バーチャル男性はバーチャル女性の目を見続けるようプログラムされていました。バーチャル男性はバーチャル女性に接近し、電話をぶち、テーブルから落としました(身体的暴力)。最後にはバーチャル男性がドアップになり、視界のほとんどを埋め尽くすまでバーチャル女性に接近しました。参加者がバーチャル男性の独白を邪魔した場合は、"Shut up!"(黙れ!)とバーチャル男性が言いました。

このバーチャル実験の様子はYoutubeでも動画が公開されています。


VR後のFBCテストは、HMDやヘッドホンを外した後に行いました。最後にVR体験後の質問紙、準構造化面接、デブリーフィングを実施。

実験の結果、VR前のベースラインで、DV群よりも統制群の方が男性の怒り表情、男性の恐怖表情、女性の恐怖表情の認知の正確性が高くなりました。一方、女性の怒り表情の認知ではDV群と統制群で正確性が同等レベルでした。

VR経験後、統制群よりもDV群の方が女性の恐怖表情の認知力が高まりました。統制群でもDV群でもVR経験後に男性の恐怖表情や怒り表情の認知力が変化したとはいえませんでした。また、女性の怒り表情の認知力は、DV群より統制群でVR経験後に高まりました。

VR前のベースラインで、統制群よりもDV群の方が女性/男性の恐怖表情を幸福だと判断するバイアスが高くなりました。一方、怒り表情(vs.幸福表情)に関しては統制群とDV群で反応バイアスに違いがありませんでした。

VR経験後、統制群よりもDV群の方が女性/男性の恐怖表情を幸福だと判断するバイアスが低下しました。男性の怒り表情(vs. 幸福表情)の反応バイアスに関しては、VR経験の効果に群間差は発見されませんでした。女性の怒り表情(vs. 幸福表情)に関しては、DV群よりも統制群の方がVR経験後に怒りだと判断するバイアスが強まりました。

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posted by マーキュリー2世 at 00:46 | Comment(0) | 心理療法、臨床心理学、精神医学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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