2017年10月09日

自傷傾向が高いと自分に見立てた人形にピンを刺しまくる


心理学には呪いの人形課題(Voodoo Doll Task,VDT)という実験手続きがあります。呪いの人形課題とは、誰か他者に見立てた人形にどれだけピンや釘を刺すかで、その他者への攻撃を測る課題のことです。人形は実際のものでもかまいませんし、コンピュータで画像提示するだけでもかまいません。ただし、教示ではVoodoo(呪術)という言葉を使いません。

今回は、その呪いの人形課題を応用して、自傷傾向を測る課題を開発した研究を取り上げます。名付けて、呪いの人形自傷課題(Voodoo Doll Self-Injury Task,VDSIT)です。つまり、人形が表象するのを他者ではなく自己とすることで、呪いの人形課題を活用して自傷傾向を測ることができるというのです。

Chester, D. S., Whitt, Z. T., Davis, T. S., & Dewall, C. N. (2017). The Voodoo Doll Self-Injury Task: A New Measure of Sub-Clinical Self-Harm Tendencies. Journal of Social & Clinical Psychology, 36(7), 554-579. doi:10.1521/jscp.2017.36.7.554.

アメリカのバージニア・コモンウェルス大学心理学研究室、ケンタッキー大学心理学研究室、バークレーウエルビーイング研究所(Berkeley Well-Being Institute)の研究者による論文です。

〇研究1

研究1の目的は2つでした。1つは、自傷経験のある人達の方が、VDSIT得点が高くなるかどうか検証することでした。もう1つは、自傷傾向を高めることで知られる社会的排斥により、VDSIT得点が高くなるかどうか検討することでした。

参加者は心理学概論被験者プールの大学生203名(女性157人,平均年齢18.72歳,年齢のSD = 1.19)。白人が83.3%、黒人が10.3%、アジア系が2.0%、アメリカインディアンが1.0%、ヒスパニック・ラテン系が1.0%、混血が1.0%、アラブ系が0.5%、後はその他。

呪いの人形自傷課題(VDSIT):まず参加者は自己に見立てた人形(自己人形)を見ました。次に、その自己人形の様々な部位にピンが刺さっている様子を見ました。ピンの数は1〜19本でした。次に、自己人形に51本のピンが刺さっている様子を見ました。最後にピンが1本も刺さっていない自己人形を見せ、何本のピンを刺したいか尋ねました。

VDSITの後、参加者は自傷質問紙(Inventory of Statements About Self-injury,ISAS)に回答しました。ISASとは、意図的な非自殺自傷歴の有無を尋ねる質問紙のことです。

実はVDSITの前に、サイバーボール課題を実施していました。サイバーボール課題とは、オンライン上で他者(実際はコンピュータプログラム)とのキャッチボールでボールがくる頻度によって社会的排斥・社会的内包を体験させる実験手続きのことです。キャッチボールは3人以上で行いますから、ボールがくる頻度に不均衡を生じさせることができます。今回は参加者をランダムに社会的受容を経験する群と社会的排斥を経験する群とに分けました。社会的受容の場合は他のプレイヤーと同頻度でボールを受けましたが、社会的排斥の場合は最初の数回しかボールが来ないで、後は相手にされませんでした。

まとめると、研究の流れは、サイバーボール課題→VDSIT→ISASで自傷歴について尋ねるという順序でした。

実験の結果、自己人形にピンを刺さない人が多くなりましたが、51本すべてのピンを刺す人もおり、個人差がありました。年齢はVDSIT得点(ピンを刺した数)と関連しませんでした。男性より女性の方がVDSIT得点が低くなりました。社会的受容群よりも社会的排斥群の方が自己人形により多くのピンを刺しました。

自傷をしたことのある大学生は19.7%でした。自傷をしたことのない大学生よりも自傷をしたことのある大学生の方が、自己人形に多くのピンを刺しました。

〇研究2

研究2の目的は3つでした。1つは、研究1で見いだされたVDSIT得点と自傷歴の間の関係の再現でした。もう1つは、VDSIT得点と特性自傷、状態自傷との間の関係を調べることでした。最後に、VDSIT得点と自傷のリスク要因(不安、抑うつ、自己批判、自尊感情の低さ)との関係を調べました。

参加者は心理学概論被験者プールの大学生368名(女性243人,平均年齢21.35歳,年齢のSD = 3.36)。人種・民族は不明。

新たな使用質問紙一覧
・ベック不安尺度(Beck Anxiety Inventory,BAI):ここ1カ月の不安症状を評定。質問は21項目。4件法。
・ベック抑うつ質問票–II(Beck Depression Inventory–II,BDI–II):抑うつ症状を評定。質問は21項目。4件法。
・自己批判レベル尺度(Levels of Self-Criticism Scale,LSCS):特性レベルの内在化自己批判、比較化自己批判を評定。質問は22項目。7件法。内在化自己批判とは、自己の内的な基準と比較して自分を否定的に捉える傾向のことです。比較化自己批判とは、他者と比較して自分のことを否定的に捉える傾向のことです。
・ローゼンバーグ自尊感情尺度(Rosenberg Self-Esteem Scale,RSES):特性レベルの自尊感情を評定。本研究では4つの質問項目を使用。7件法。
・自傷意図尺度(Self-Injury Intention Measure,SIIM):現在の自傷意図や自傷意図傾向を評定。質問は4項目。自傷行為の可能性を9段階評価。

インターネット上での調査、実験。自傷質問紙(ISAS)やSIIM等に回答後、VDSITを実施、後にBAI、BDI–II、LSCS、RSESに回答。

実験の結果、自己人形にピンを刺さない人が多くなりましたが、個人差がありました。年齢が高いほど、自己人形にピンを刺す数が多くなりました。男性より女性の方が自己人形に刺すピンの数が少なくなりました。

特性自傷、状態自傷(自傷渇望や自傷思考)は高いほど、自己人形に刺すピンの数が多くなりました。この傾向は実際に自傷行為をしたことのあった大学生でも自傷行為をしたことのなかった大学生でも生じました。なお、意図的に自傷をしたことのある大学生は38.7%でした。自傷歴のない大学生と比較して自傷歴のある大学生は、自己人形に刺すピンの数が多くなりました。

不安や抑うつ、自己批判が高いほど、自己人形に刺すピンの数が多くなりました。自尊感情が高いほど、自己人形に刺すピンの数が少なくなりました。

〇研究3

ネガティブ/ポジティブな社会的フィードバックの影響とVDSIT得点の関係を調べることを目的としました。これはネガティブフィードバックが自傷を促進すると考えられているためです。

参加者は心理学概論被験者プールの大学生186名(女性136人,平均年齢19.42歳,年齢のSD = 1.88)。白人が75.7%、黒人が9.7%、アジア系が5.9%、アメリカインディアンが0.0%、ヒスパニック・ラテン系が5.4%、その他が7.0%。

研究3で用いたVDSITは研究1や研究2のものとは異なりました。教示に「過去の失敗を自分で罰するとパフォーマンスが良くなる」という偽情報を入れました。エッセー課題のパフォーマンスのために自分で自分を罰するかどうかを、参加者に見立てた人形にどれだけの数の針を刺したいかで評価しました。刺せる針の最大数は51本でした。

実験はインターネット上で行いました。怒った時を題材とした800文字以上のエッセーを執筆し、評定者から評価をもらいました。ネガティブフィードバックでは低い点数と「これまで読んだエッセーの中で最悪のものの1つだ」というコメントを受け、ポジティブフィードバックでは高得点なだけでなく、「すばらしいエッセーだ!」というコメントも受けました。

実験の結果、自己人形に針を刺さない人が多くなりましたが、個人差がありました。年齢が高いほど、自己人形に針を刺す数が少なくなりました。性別によって自己人形に針を刺す数が違うとはいえませんでした。

エッセーの評価を疑っていた人39名を除いて分析した結果、エッセーについてポジティブフィードバックを受けるよりもネガティブフィードバックを受けた方が、自己人形に多くの針を刺しました。

〇研究4

これまでは大学生を対象とした研究ばかりでした。そこで、研究4では大学生ではない人を対象としました。また、他者に身体的危害を加えたいという欲求(身体的攻撃性)との関係(の無さ)を調べました。さらに、VDSITが精神的な負担を強いるテストかどうか調査するため、VDSITの前、最中、後にネガティブ感情とポジティブ感情の報告を求めました。

参加者はAmazon Mechanical Turk(Mturk)の被験者プールから募集。397人の成人が参加(女性201人,平均年齢32.70歳,年齢のSD = 8.76)。白人が48.1%、黒人が3.3%、アジア系が26.9%、アメリカインディアンが2.8%、ヒスパニック・ラテン系が16.5%その他が18.5%。

新たな使用質問紙一覧
・12項目攻撃性質問紙短縮版(12-item Brief Aggression Questionnaire,BAQ):特性攻撃性を評定。怒り、敵愾心、身体的攻撃性、言語的攻撃性の4因子で、それぞれ質問が3項目。7件法。
・ニーズ脅威感情下位尺度(Need Threat Affect Subscale,NTAS):現在のネガティブ感情・ポジティブ感情のレベルを評定。それぞれ質問が4項目。7件法。
・自傷意図尺度状態版(Self-Injury Intention Measure-State version,SIIM-S):現在の自傷欲求を評定。質問は6項目。

研究3と同じエッセー課題を実施した後、NTASに回答し、VDSITを実施。刺したピンの数を確認後、VDSITの最中と後に生じたネガティブ感情・ポジティブ感情の評定を要請。最後にSIIM-S、自傷質問紙(ISAS)、BAQに回答(VDSITの手続きは研究1、研究2と同じ)。

実験の結果、自己人形にピンを刺さない人が多くなりましたが、個人差がありました。年齢が高いほど、自己人形に刺すピンの数が少なくなりました。男性より女性の方が自己人形に刺すピンの数が少なくなりました。

現在自傷したいという動機づけが高い人ほど、自己人形に刺すピンの数が多くなりました。これは自傷経験があった人でも自傷経験がなかった人でも同様でした(自傷経験があったのは26.4%)。

自傷歴がなかった人と比較して、自傷歴があった人は自己人形に刺すピンの数が多くなりました。

抑うつ、怒り、敵愾心が高かった人ほど、自己人形に刺すピンの数が多くなりました。言語的攻撃性が高かった人ほど自己人形に刺すピンの数が少なくなりました。身体的攻撃性は自己人形に刺すピンの数とは有意な関連を示しませんでした。

エッセー課題のフィードバックを疑っていた142人のデータを除外して解析しました。その結果、ポジティブフィードバックを受けた人よりもネガティブフィードバックを受けた人の方が自己人形に刺すピンの数が多くなりました。

VDSITの前も最中も後もネガティブ感情は中央の値を上回ることはありませんでした。これは自傷行動歴があった人でも自傷行動歴がなかった人でも同様でした。

〇研究5

研究5ではこれまでの結果がラボでの実験でも再現できるか検証しました。

参加者は心理学概論被験者プールの大学生197名(女性125人,平均年齢20.06歳,年齢のSD = 4.65)。白人が44.7%、黒人が18.3%、アジア系が19.3%、アメリカインディアンが0.0%、ヒスパニック系が13.7%、その他が17.8%。

VDSITはインターネット上ではなく、E-Prime 2.0という心理学実験ソフトウェアを用いたラボ環境で実施しました。また、これまでスライダーバーを使って回答を要請していたものを、自己人形に刺したいピンの数をタイプする形式に変更しました。

新たな使用質問紙
・32項目反社会的行動サブタイプ(Sub-Types of Antisocial Behavior,STAB):反社会的行動の頻度を評定。反社会的行動は身体的攻撃、社会的攻撃、規則違反。12項目攻撃性質問紙短縮版(BAQ)よりも行動に基づく攻撃の評定が可能。

まず、実験参加者はエッセー課題をして、それからVDSITを実施し、自傷意図尺度状態版(SIIM-S)、BAQ、STABに回答。

実験の結果、自己人形にピンを刺さない人が多くなりましたが、個人差がありました。年齢が高いほど自己人形にピンを刺す数が多くなりました。自己人形にピンを刺す数に性差は検出されませんでした。

現在の自傷行動動機づけが高い大学生ほど、自己人形にピンを刺す数が多くなりました。BAQの身体的攻撃が高い人ほど自己人形にピンを刺す数が少なくなりました。また、STABの身体的攻撃ではVDSIT得点との有意な関連が検出されませんでした。ただ、STABの規則違反や社会的攻撃が高いほど、自己人形にピンを刺す数が多くなりました。

エッセー課題のフィードバックについて疑っていた8名を除外すると、ポジティブフィードバックを受けた大学生よりもネガティブフィードバックを受けた大学生の方が、自己人形に刺すピンの数が多くなりました。

自傷研究一覧
クリスマス、新年に自傷が減少する(例外あり)
自傷の傷跡が持つ意味

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posted by マーキュリー2世 at 01:42 | Comment(0) | 死(自殺・自傷含む)の研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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