2017年08月07日

幼少期の夢の記憶が古い人は悪夢を見ることが多い


幼少期の夢の記憶が古い人は悪夢を見ることが多いという研究があります。

Nielsen, T. (2017a). When was your earliest dream? Association of very early dream recall with frequent current nightmares supports a stress-acceleration explanation of nightmares. Dreaming, 27(2), 122-136. DOI: 10.1037/drm0000051.

カナダのCIUSSS-NÎMモントリオール・サクレクール病院睡眠医学先端研究センター夢悪夢ラボ(実験室)兼モントリオール大学精神医学研究室の研究者1名による単論文です。

とある仮説によれば、悪夢を見ることが多い人はそうでない人よりも幼児期健忘が生じるはずの頃の記憶(夢を含む)へのアクセスが高いはずです。

このことを検証するため、17,014人の参加者に調査に協力してもらいました。参加者には、現在悪夢を見る頻度や睡眠中に見たことのある夢で一番古いもの(夢の最早期記憶)について、回答してもらいました。

その結果、幼児期健忘で3歳(半)までの記憶が思い出しにくいはずなのに、3歳(半)までに見た夢のことを思い出せる人が4.63%いました。また、彼らは現在悪夢を見ることが多い結果となりました。これは幼少期に見た夢が情動的にポジティブな夢でもネガティブな夢でも生じました。

夢の最早期記憶で多かったテーマは4種類で40.2%を占めました。40.2%の内訳は、追いかけられる夢が14.02%、落下する夢が11.44%、飛ぶ夢が9.45%、悪の力や悪魔に遭遇する夢が5.29%でした。

さて、このような調査を行った理由は、悪夢のストレス加速仮説(Stress-Acceleration Hypothesis of Nightmares,SAH-N)を検証するためでした。この仮説によれば、逆境で幼児期健忘の時期が短縮することで、普通なら忘却されるもしくは思い出せない頃の強い原始的感情や記憶の断片へのアクセスが促進されることによって、悪夢が生じるとされます。今回の研究結果は因果関係まで立証するものではありませんが、この仮説を支持するものです。ただし、逆境体験を調べていない方法論的問題や、幼少期のネガティブな内容の夢だけでなく、ポジティブな夢でも思い出せる年齢が3歳(半)未満だと悪夢が多いという結果はどう説明するかという問題もあります。

Nielsen (2017b)によると、悪夢のストレス加速仮説(SAH-N)は、精神障害のストレス加速仮説(Stress Acceleration Hypothesis of Mental Illness,SAH-MI)を悪夢に適用したものです。SAH-MIによると、幼少の敏感期(sensitive period)の逆境体験(分離/別離や虐待、ネグレクト、いじめ、暴力の目撃等)は精神障害の罹患リスクを高めます。実はこの敏感期は幼児期健忘で後に思い出せなくなる期間と重なっています。この時期に逆境を経験すると、恐怖の表出、学習、消去を中心とした基本的情動に関わる情動制御系が早熟し、大人のようになります。これは短期的には適応的かもしれませんが、長期的には精神障害のリスクを高めます。

SAH-NはSAH-MIと同じく、幼児期健忘期に体験した逆境が成長後の悪夢リスクとなるということを説明するメカニズムに関する仮説です(以下の図を参照のこと)。普通は幼児期健忘期(図では3歳半まで)の記憶は思い出せないわけですが、幼少期の逆境体験で普通なら思い出せない幼児期健忘期の頃の(逆境)記憶のアクセス可能性が夢の中で高まるようになり、それが悪夢となって出現するというわけです。

nightmare.jpg
*Nielsen (2017b)のFigure 1より転載(小さくて見にくい場合はクリックしてください)

なお、これはほんの一部の説明なので、SAH-Nについて詳しく知りたい方は、Nielsen (2017b)を参考にしてください。たとえば、Nielsen (2017b)によると、REM睡眠中に恐怖の消去を制御する恐怖回路(扁桃体・海馬・内側前頭前野)の障害(というより早熟)も悪夢の一因とされています。

〇引用文献
Nielsen, T. (2017b). The Stress Acceleration Hypothesis of Nightmares. Frontiers in Neurology: Sleep & Chronobiology, 8:201. doi: 10.3389/fneur.2017.00201.

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posted by マーキュリー2世 at 01:43 | Comment(0) | 発達心理学・発達障害 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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