2017年07月10日

自己理解は他者理解を深める

瞑想訓練で自己理解を深めると、他者理解(高次の心の理論課題)も上手になるという研究があります。特に、瞑想訓練期間中に自分の中のネガティブな側面を発見した数が多いほど、他者の信念や意図を推測するのが上手になります。

Böckler, A., Herrmann, L., Trautwein, F-M., Holmes, T., & Singer, T. (2017). Know thy selves: Learning to understand oneself increases the ability to understand others. Journal of Cognitive Enhancement, 1(2), 197–209. DOI: 10.1007/s41465-017-0023-6.

ドイツのマックス・プランク人間認知脳科学研究所社会神経科学部門、ヴュルツブルク大学心理学研究所、アメリカの西ミシガン大学の研究者による論文です。

最終的にデータ解析されたのは141人(女性81人)。平均年齢40.94歳(SD = 9.39)。もともとの研究は332人が参加したもので、以下の4群にランダムに割り当てていました。今回は視点モジュール訓練を受けた全モジュール訓練群1と全モジュール訓練群2だけを訓練群としてデータ解析に使いました(20人のデータは訓練を完遂しなかった、データ保存での技術的問題で分析できず)。

・全モジュール訓練群1(80人):訓練の順番が存在感モジュール訓練(3カ月間)→感情モジュール訓練(3カ月間)→視点モジュール訓練(3カ月間)
・全モジュール訓練群2(81人):訓練の順番が存在感モジュール訓練(3カ月間)→視点モジュール訓練(3カ月間)→感情モジュール訓練(3カ月間)
・感情モジュール訓練のみ群(81人):感情モジュール訓練(3カ月間)のみ実施
・統制群(90人):訓練なし

存在感モジュール訓練は、注意や内受容感覚への気づきを、感情モジュール訓練は慈悲や感謝、思いやり(コンパッション)、手に負えない情動への対処力、向社会的動機づけを、視点モジュール訓練はメタ認知スキルや自己の視点取得力、他者の視点取得力を鍛えるプログラムでした。

各々の訓練モジュールは最初の8週間を先生から教わる瞑想の教授学習に当て、残りの5週間をさらなる能力の深化と各々で目標とする能力の評価にあてました。特に最初の3日間はコアとなるエクササイズの学習に取り組みました。コアエクササイズは毎日自宅で30分間するよう教示しました。1週間に1回は瞑想の先生の指導セッションに参加しました。

視点モジュール訓練では1週間に1度2時間のセッションを20人で受講しました。瞑想の先生から参加者が教わったのは思考観察瞑想(observing-thoughts meditation)と視点ダイアド(perspective dyad)の2つのトレーニングでした。思考観察瞑想とは、自分の思考に対するメタ認知的気づきを高め、超然と自分の思考に執着しないようにする瞑想訓練のことです。視点ダイアドとは、自己あるいは他者の心的過程について認知的な視点取得をする能力を高めるための訓練のことです。

*ちなみに、存在感モジュール訓練のエクササイズは呼吸瞑想とボディスキャン瞑想、感情モジュール訓練のエクササイズは慈悲の瞑想(loving-kindness meditation)と感情ダイアドでした。

思考観察瞑想では目を閉じて座り自分の思考に注意を向ける訓練を行いました。思考の内容は自分/他者、過去/未来、ポジティブ/ネガティブの次元で分類しました。

視点ダイアド訓練の基盤とした理論体系は内的家族システム(Internal Family System,IFS)でした。内的家族システムとは、1個人の中に複数の自己が存在するというモデルのことです。この複数の自己はそれぞれが独自の認知、感情、行動パターンを有し、別個の下位性格(内なる部分)を形成していると考えられています。

視点ダイアドでは、まず最初の3日間で子どもと遊んでいる時などの模範的状況で支配的な内なる部分を同定しました。それぞれの状況で支配的な内なる部分を合計で6つ名付けました。この内なる部分を後の視点ダイアドセッションで活用しました。

視点ダイアドセッションは、2人で話し手と聞き手の役割を5分ごとに交替して行いました。まず、話し手の内なる部分6種類を聞き手に伝えました。次に話し手は、最近経験したことをコンピュータアルゴリズムがランダムに選んだ内なる部分の視点に立って話しました。聞き手は、話し手がどの内なる部分の視点に立って話しているか推測しました。これにより話し手は自己の視点取得訓練を、聞き手は他者の視点取得(心の理論)訓練をすることになりました。

3か月間、視点ダイアドのセッションが週1で13回あり、いつでも6つの内なる部分を変更できました。最初の3日間と週1の視点ダイアドセッションは対面で行いました。しかし、日頃の10分間の2者での瞑想エクササイズは、声に基づくインターネットプラットフォームを通してオンラインで行いました。

オリジナルの内的家族システムモデルでは、内なる部分を管理者(Managers)、亡命者(Exiles)、消防士(Firefighters)の3種類に分類していました。この3分類は心理セラピーに依拠するものです。臨床以外でも使えるようにしたのが愉悦パート(Pleasure Parts)やお世話パート(Caring Parts)などで12種類ありました。本研究では、12種類の内なる部分に加えて、事後的にハッピーパート(Happy Parts)と楽天家(Optimists)を追加し、後は分類しませんでした。

*管理者とは、外的世界の要求に適応し、日常生活を合理的に構造化する行動、認知パターンを有する下位性格のことです。亡命者とは、トラウマ経験による重いネガティブ感情で苦しんでいる下位性格のことです。亡命者は管理者が意識の外に追いやった下位性格だと説明されることもあります。消防士とは、亡命者が限度に達して、極端な感情状態になったり傷つきやすくなった時に、内なる炎のような感情を消そうとする下位性格のことです。消防士は食物やお酒、仕事、薬物、セックス等によって感情の「消火活動」をするとされます。愉悦パートとは、快楽原則で身体ニーズの即時の満足を求める下位性格のことです。お世話パートとは、共感や親密性、介意動機づけに関わる下位性格のことです。

心の理論の評価はEmpaToMで実施。EmpaToMとは高次の心の理論、共感、思いやりを測る実験パラダイムのことです。EmpaToMでは自伝的エピソードについて他者が語っている短いビデオを観て、語り手の思考や意図、目標について推論し、選択肢から回答を選びました。

特性感情はネガティブ感情、ポジティブ感情、低覚醒ポジティブ感情の3成分で評価。使用質問紙は成人気質質問紙(Adult Temperament Questionnaire,ATQ)、ベック抑うつ質問票(Beck Depression Inventory,BDI)、NEO性格検査改訂版(Revised NEO Personality Inventory,NEO-PI-R)、精神衛生連続体短縮版(Mental Health Continuum Short Form,MHC-SF)、ポジティブ感情ネガティブ感情尺度(Positive Affect Negative Affect Scale,PANAS)、感情強度尺度短縮版(Short Affect Intensity Scale,SAIS)、ポジティブ感情タイプ尺度(Types of Positive Affect Scale,TTPAS)。

視点モジュール訓練終了後、視点ダイアド動機づけを評価。動機づけの質問では、視点ダイアドがどれぐらい好きだったか?視点ダイアドがどれぐらい待ち遠しかったか?日常生活にどの程度視点ダイアドを取り入れることができたかを質問。回答は5件法リッカート尺度。

その結果、12週間の訓練中に1人で見つけた内なる部分の平均数は11個でした(範囲6〜23個,SD = 3.45)。ネガティブな内なる部分は平均して4.89個(範囲1〜11個,SD = 2.15)、ポジティブな内なる部分は平均して6.21個(範囲2〜17個,SD = 2.51)でした。ー3〜3までの7件法リッカート尺度で評価した情動価の平均値は.31(範囲−.86〜1.43,SD = 0.38)でしたので、少しポジティブ方向に偏っていました。

*内なる部分(N = 1,147)の情動的ポジティブ価、ネガティブ価は独立した3者(22歳の女性、26歳の女性、30歳の男性)が評定(クロンバックのα係数は.93)。評価方法はー3〜3までの7件法リッカート尺度。評価が曖昧だった内なる部分39個(3.4%)は分析から除外。

平均値から1SD超離れた極端にネガティブな内なる部分は5種類ありました。その内、1人あたり平均して1.16個の極端にネガティブな内なる部分が訓練中に見いだされました(範囲0〜3個,SD = .70)。平均値から1SD超離れた極端にポジティブな内なる部分は4種類ありました。その内、平均して1.10個の極端にポジティブな内なる部分が見いだされました(範囲0〜2.83個,SD = .66)。

特性感情のポジティブ感情は内なる部分の平均情動価と正の相関関係(r = .27)を示し、ポジティブ感情が高い人ほど、同定する内なる部分がポジティブであることが示唆されました。内なる部分の平均情動価とネガティブ感情の間の相関関係(r = −.14)、内なる部分の平均情動価と低覚醒ポジティブ感情の間の相関関係(r = .15)は有意傾向にとどまりました。

極端にポジティブな内なる部分が多い人ほど、ポジティブ感情(rho = .29)や低覚醒ポジティブ感情(rho = .23)が高くなりました。極端にネガティブな内なる部分が多いほど、ネガティブ感情が高く(rho = .33)、ポジティブ感情が低くなりました(rho = −.20)。

さて、長くなりましたが、本題はここからです。12週間の視点モジュール訓練中に同定した内なる部分の数が多いほど、視点モジュール訓練前後の高次の心の理論課題の成績向上が大きくなりました(rho = .19)。特に、ネガティブな内なる部分を同定した数が多いほど、心の理論の改善が大きくなりました(rho = .33)。ベースラインの心の理論課題の成績(r = .34)やベースラインのネガティブ感情(r = .26)を統制しても、ネガティブな内なる部分を同定した数が多いほど、心の理論課題の成績が向上しました。さらに、視点ダイアド動機づけを統制しても、ネガティブな内なる部分が多く同定できたほど、心の理論課題の成績が高まりました(r = .28)。

しかし、ポジティブな内なる部分を見つけた数は心の理論の向上とは有意な相関関係を示しませんでした(rho = .04)。

なお、以上の心の理論課題の成績とは、反応時間とエラー率を合わせた成績のことです。心の理論課題の正確性だけを指標としても、同様にネガティブな内なる部分を見つけた数が多いほど、心の理論が向上しました(rho = .20)。一方、ポジティブな内なる部分の数(rho = −.03)や内なる部分の総数(rho = .09)は、心の理論課題の正確性向上と有意に相関しませんでした。

スポンサードリンク

posted by マーキュリー2世 at 01:16 | Comment(0) | TrackBack(0) | (マインドフルネス)瞑想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック