2017年06月11日

1人より2人で決めた方が衝動的にならない

1人で報酬を選択するより2人で合意を形成した上で報酬選択をした方が衝動性が低くなるという研究があります。また、1人より2人で合意選択をした方が有利な選択ができ、最終的に獲得する報酬金額が大きいという結果も得られました。さらに、最初に2人の間に意見の不一致がある場合でも、最終的には衝動的な選択をせず、獲得までに時間がかかる大報酬を待て、有利な選択が可能でした。

Schwenke, D., Dshemuchadse, M., Vesper, C., Bleichner, M. G., & Scherbaum, S. (2017). Let’s decide together: Differences between individual and joint delay discounting. PLoS ONE, 12(4): e0176003. doi:10.1371/journal.pone.0176003.

ドイツのドレスデン工科大学心理学研究室、ツィッタウ・ゲルリッツ大学社会科学研究科、オルデンブルク大学(カール・フォン・オシエツキー大学オルデンブルク)心理学研究室、ハンガリーの中央ヨーロッパ大学認知科学研究室の研究者らによる論文です。

実験参加者は60人(女性45人)。平均年齢は22.9歳(SD = 3.6)。彼らは2人1組に分けられました(女性ペアが18組,男性ペアが3組,男女混合ペアが9組)。14組は知人同士で、16組は初対面でした。

2人は背中合わせでコンピュータモニターの前に着席し、スクリーン画面に視線を維持し、言語的にも非言語的にもコミュニケーションをしないように実験者から教示されました。

実験は遅延割引課題、すなわち即時小報酬か遅延大報酬かの選択でした(下の図を参考のこと)。2つの選択肢のいずれかが右上(第一象限)で、もう一方が左下(第三象限)でした。中央にアバターを、第一象限/第三象限の中には数字を呈示しました。2つの数字はアバターを通して線でつながっており、数字が金銭額、線の長さが遅延時間に相当しました。参加者はスクリーン中央に表示されているカーソルを、第一象限/第三象限の隅にあるターゲット箱に移動させることで選択反応をしました。選択後、アバターが線に沿って動きだし、数字(金銭額)に到着すると、その金額を参加者が獲得しました。線の長さ(遅延時間)が長いほど、アバターの移動にかかる時間が長くなる仕掛けで、スクリーン画面にはカウントダウン表示もしました。

journal.pone.0176003.g001.PNG
*論文のFig 1.より引用

なお、右下(第二象限)と左上(第四象限)にはこれまでに獲得した金額を呈示しました。また、カーソルの移動には時間制限を設けませんでした。さらに、たとえ即時小報酬を選択しても、実験に要する時間は遅延大報酬と同じになるように工夫しました。参加者が中央にカーソルを戻してから次の試行を開始しました。仮に即時小報酬を第一象限(遅延大報酬を第三象限)とすると、そのことは同じ参加者の中で実験中に変えませんでした(ただし、参加者間で報酬場所をカウンターバランス)。

このような遅延割引課題を1人でする条件と2人でする条件とを設定しました。どの参加者も単独条件と二者条件を経験する被験者内実験計画でした(条件の順序は参加者間でカウンターバランス)。

1人でする場合には操作レバーを用いて自分で自由にカーソルを移動させることが可能でした。しかし、2人でする場合には1人は水平方向か垂直方向のどちらかにしかカーソルを移動させることができませんでした。この2人の動きを合算して最終的なカーソルの移動方針が決まりました。

この実験が巧みなのは2人の間に選好の違いがあると、決して選択ができない点にありました。つまり、1人が即時小報酬を選好しカーソルを下方向に移動させる一方で、もう1人が遅延大報酬を選好し右側にカーソルを動かすと、カーソルが右下に行きますがそこにはターゲット箱がなく、選択反応ができませんでした。これは左上へのカーソルの移動でも同様でした。したがって、選択反応をするためには2人の間で、即時小報酬を選択するか遅延大報酬を選択するか合意を成立させなければなりませんでした。しかも、やり取りはカーソルの移動を見ることだけで行いました。

小報酬は0.1€セント〜0.5€セント、大報酬は0.6€セント〜1€セントとしました。即時報酬でアバターの移動にかかる時間は0.29秒、0.88秒、1.76秒、遅延報酬でアバターの移動にかかる時間は0.59秒、0.88秒、1.18秒、1.47秒、2.06秒、2.35秒、2.65秒、3.53秒、4.12秒、5.00秒としました。

個人での実験とペアでの実験で得られた報酬の合計金額+3€を、参加者は実験終了後に獲得しました。

実験の結果、刺激の呈示から初めてカーソルを動かすまでにかかった平均時間は単独条件で1.60s、二者条件で1.61sでした。

全試行の42.06%は即時小報酬の選択(衝動的な選択)になりました。単独条件(効果量d = -0.55)や二者条件での最初のカーソルの動き(d = -0.58)よりも二者条件での最終的な選択の方が、即時小報酬を選択することが少なくなりました。また、単独条件よりも二者条件での最初のカーソルの動きの方が有意傾向ながら即時小報酬を選択することが少なくなりました。

時間割引率(k)に関しても、単独条件(d = -0.512)や二者条件での最初のカーソルの動き(d = -0.70)よりも二者条件での最終決定の方が低くなりました。つまり、時間による獲得金銭の主観的価値の目減りは2人で合意を形成する方が小さくなったということです。一方、単独条件と二者条件での最初のカーソルの動きの間には時間割引率の有意差が検出されませんでした。

金銭額と遅延時間の比率から、2つの選択肢の内どちらが有利/不利だったか?という点で解析すると、あらゆる条件をひっくるめた全試行で83.05%が有利な選択でした。また、単独条件(d = 0.50)や二者条件での最初のカーソルの動き(d = 1.19)と比較して、二者条件での最終決定の方が有利な選択が多くなりました。事実、単独条件と比較すると、二者条件での最終決定の方が獲得金額が高くなりました(d = -0.64)。一方、単独条件と二者条件での最初のカーソルの動きの間では有利な選択頻度に有意差が検出されませんでした。

二者条件での最初のカーソルの動きが葛藤型、すなわち1人が即時小報酬を選択し、もう1人が遅延大報酬を選択した試行の割合は18.20%でした。この葛藤試行の内、平均して42.42%が最終的に即時小報酬を選択しました。これはすなわち、最初の選好が二者間で違うと、50%よりも有意に高い確率で最終的に遅延大報酬を選択したということを意味します(50%確率に対する1サンプルのt検定,効果量はd = -0.56)。

また、二者条件で最初のカーソルの動きから最終的な意思決定までの「交流」時間を解析すると、葛藤試行の場合には即時小報酬を合意選択した場合よりも遅延大報酬を合意選択した場合の方がかかった時間が短くなりました(d = 0.40)。さらに、葛藤試行の84.14%が有利選択で、これは50%よりも有意に高い確率で有利選択ができたことを意味します(50%確率に対する1サンプルのt検定,効果量はd = 5.44)。ただ、交流時間は有利選択と不利選択の間で有意差が検出されませんでした。

単独条件と二者条件の最終選択の間のスピアマンの順位相関係数(rho)は即時小報酬の選択頻度で0.72、有利な選択の頻度で0.74で、どちらも有意でした。ペアの内で相対的に時間割引が高い人(rho = .48)よりも時間割引が低い人(rho = .84)の方が、二者条件での即時小報酬/遅延大報酬の最終選択と相関しました。同様に、相対的に有利な選択をすることが少ない人(rho = .55)よりも有利な選択が多い人(rho = .79)の方が、二者条件での最終選択と相関しました。つまり、二者条件での最終選択は、ペアの中で相対的に時間割引が高い人よりも時間割引が低い人、有利な選択が少ない人よりも有利な選択が多い人の選択によって予測できたということです。

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posted by マーキュリー2世 at 21:13 | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会心理学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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