2017年04月22日

オキシトシン濃度が高い人はラバーハンド錯覚で身体所有感を感じやすい


唾液中オキシトシン濃度が高い人はラバーハンド錯覚で身体所有感を感じやすいという研究があります。ただし、ラバーハンド錯覚の前後でオキシトシン濃度の変化は検出されませんでした。代わりに自閉症特性が強いと身体所有感を感じにくい結果となりました。特に、自閉症特性の内、ソーシャルスキルやコミュニケーション上の困難が強い人は、ラバーハンド錯覚で身体所有感を感じにくくなりました。コミュニケーション困難が高い人は、オキシトシン濃度が低い結果となりました。

なお、ラバーハンド錯覚とは何ぞや?という方は「ラバーハンドとブラシの間に磁力を感じる錯覚」という記事で解説していますので、参考にしてください(ラバーハンド錯覚の動画も掲載しています)。

Ide, M. & Wada, M. (2017). Salivary Oxytocin Concentration Associates with the Subjective Feeling of Body Ownership during the Rubber Hand Illusion. Frontiers in Human Neuroscience, 11:166. doi: 10.3389/fnhum.2017.00166.

埼玉県所沢市の国立障害者リハビリテーションセンター研究所脳機能系障害研究部発達障害研究室の井手正和日本学術振興会特別研究員PD、同研究所研究室の和田真室長の2名の研究者による共著論文です。

最終的にデータ解析したのは15人(女性7人、男性8人,平均年齢21.7歳 ± 0.48 SEM)。

エジンバラ質問紙(Edinburgh Inventory,EI)によって利き手を得点化し、側性係数(Laterality Quotient,LQ)を算出。両手利きが1人いましたが、残りの14人は右利きでした。

自閉症スペクトラム指数(Autism spectrum Quotient,AQ)日本語版で自閉症特性を評価。

参加者の目の前にあるテーブルの上にラバーハンド(義手)を置きました。参加者の本物の右手もテーブルの上に置いたのですが、衝立の向こう側で被験者からは見えません。ブラシでなでなでする部位は義手と参加者の右手でした。義手と本物の右手の上にタッチスクリーンを配置しました(義手/本物の手から12 cm上部)。

聴覚や視覚の制御のために、参加者は耳栓やノイズキャンセリングヘッドホン、液晶シャッターゴーグルを装着しました。

以下の同期条件の実験と非同期条件の実験を別々の日に行いました(順番は参加者間でカウンターバランス)。両条件とも4ブロックありました。なでなで中には、ラバーハンドの人差し指を見つめるよう教示しました。

同期条件:義手と本物の手に同期したブラシなでなでを2秒間隔で実施
非同期条件:義手に与えるなでなでと本物の手に与えるなでなでの間の時間間隔は1秒〜3秒の間でランダムに決定

参加者は、各ブロックでラバーハンド錯覚の主観的評価を質問紙で回答しました。ー3〜3までの7件法でした。自己受容感覚ドリフト(Proprioceptive Drift,PD)も計測しました。自己受容感覚ドリフトとは、自分の手がラバーハンドの近くに感じる錯覚のことです。タッチスクリーンを使って左手で右手の人差し指がどこに感じるか指さしてもらいました。ブロック後に指さした位置からブロック前に指さした位置を差し引くことで自己受容感覚ドリフトを算出。

主観的なラバーハンド錯覚の強さは、同期条件の質問への回答得点から非同期条件の質問への回答得点を引くことで算定。自己受容感覚ドリフトも同様に、同期条件の結果から非同期条件の結果を引くことで算定。

ラバーハンド錯覚実験の前後に、2 mLの唾液を採取し、オキシトシン濃度を測定。

実験の結果、ほとんどの人は同期条件でラバーハンド錯覚を感じました。非同期条件よりも同期条件の方が高くなったのは以下の質問項目でした。

1.まるでラバーハンドの触れられている場所に絵筆で触られているかのようだ
2.感じているタッチは、まるでラバーハンドに触れている絵筆によって引き起こされているかのようだ
3.まるでラバーハンドが自分の手であるかのようだ

なお、1.と2.については実験が進行するにしたがって、ラバーハンド錯覚を感じる強さが大きくなっていきました(私の主観ですが、グラフを見ると、特に非同期条件で顕著なようでした)。

自己受容感覚ドリフトは、非同期条件よりも同期条件の方が大きくなりました。また、ブロック1、3よりもブロック4の方が自己受容感覚ドリフトが大きくなりました。ブロックごとの自己受容感覚ドリフトの強さの違いは、同期条件と非同期条件の両方で生じました。

ブロック2、3、4において、実験前のオキシトシン濃度が高いと、ラバーハンド錯覚質問紙への回答の内「まるでラバーハンドが自分の手であるかのようだ」という身体所有感感覚で同期条件と非同期条件の差が大きくなりました(r = 0.56〜0.72)。ブロック2〜4を合算しても(r = 0.77)、ブロック1〜4を合算しても(r = 0.57)、実験前のオキシトシン濃度と、同期条件の身体所有感錯覚と非同期条件の身体所有感錯覚の差の相関関係は有意でした。ブロック2〜4において、実験前のオキシトシン濃度は同期条件の身体所有感錯覚と直接的に有意な正の相関関係を示しました(r = 0.62〜0.76)。

一方、「まるでラバーハンドの触れられている場所に絵筆で触られているかのようだ」や「感じているタッチは、まるでラバーハンドに触れている絵筆によって引き起こされているかのようだ」、統制質問への回答、自己受容感覚ドリフトは実験前のオキシトシン濃度と有意な相関関係を示しませんでした。

ラバーハンド錯覚実験の前後のオキシトシン濃度の変化は有意なものではなく、同期条件と非同期条件の間でも有意差が検出されませんでした。

自閉症スペクトラム指数(AQ)が高いと、ブロック2、4でのラバーハンドの身体所有感錯覚が低くなりました(ブロック2がr = −0.55、ブロック4がr = −0.68)。これはブロック1〜4のデータを合算しても同様でした(r = −0.73)。AQの内、特にソーシャルスキルの困難(r = −0.70)とコミュニケーションの困難(r = −0.74)が、身体所有感錯覚と強い負の相関関係を示しました。AQの他の下位尺度、注意の切り替え困難(r = −0.50)と想像性(r = −0.45)も身体所有感錯覚と負の相関関係でしたが、有意傾向にとどまりました。他のAQ下位尺度、詳細への注意(r = −0.014)の相関関係は有意ではありませんでした。

また、AQのコミュニケーション困難が高いと、オキシトシン濃度が低くなりました(r = −0.55)。総AQ得点やその他のAQ下位尺度得点はオキシトシン濃度と有意な相関関係を示しませんでした(r = −0.40〜0.080)。

AQ得点は、「まるでラバーハンドの触れられている場所に絵筆で触られているかのようだ」や「感じているタッチは、まるでラバーハンドに触れている絵筆によって引き起こされているかのようだ」に対する回答、自己受容感覚ドリフトとは有意な相関関係を示しませんでした。

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posted by マーキュリー2世 at 17:37 | Comment(0) | TrackBack(0) | 身体心理学(身体錯覚を含む) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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