2017年01月15日

体外離脱で死の恐怖を低下させることが可能

実験的に引き起こした体外離脱で死の恐怖を低下させることが可能という研究があります。

Bourdin, P., Barberia, I., Oliva, R., & Slater, M. (2017). A Virtual Out-of-Body Experience Reduces Fear of Death. PLoS ONE, 12(1): e0169343. doi:10.1371/journal.pone.0169343.

スペインのバルセロナ大学臨床心理学精神生物学研究科イベントラボ(EVENT Lab;Experimental Virtual Environments lab)、同大学認知発達教育心理学研究科の研究者らによる論文です。

実験参加者は成人女性で最終的にデータ解析された人数は32人。椅子に座って、脚をテーブルの上に投げ出している姿勢でした。

バーチャルリアリティ環境はUnity3Dというゲームエンジンで設定。家具が置かれているバーチャル部屋をヘッドマウントディスプレイ(HMD)を通して参加者に見せました。頭部の動きはHMDのヘッドトラッキングで追跡。モーションキャプチャで手と足の動きも追跡。ワンドというボタン付きのテレビのリモコンのようなものを参加者の右手に持たせました(バーチャルリアリティでの身体もワンドを持っています)。

実際の参加者の服装もバーチャル身体の服装も黒色でした。バーチャル身体は第一人称視点から見ることが可能で、バーチャル部屋に設置した鏡からでもバーチャル身体を見れました。バーチャル環境では姿勢や脚をテーブルの上に投げ出している様子などを現実の身体に似せました。

視運動同期と視触覚同期でバーチャル身体所有感の誘導を試みました。具体的には、視運動同期では、モーションキャプチャ技術により、バーチャル身体は実際の身体と同じ動きを同じタイミングで再現しました。また、視触覚同期では、現実の身体に触覚振動刺激を左右の手首と足首に装着した装置から与え、これと同時にバーチャル身体の同じ部位にバーチャルボールを当てました。

実験参加者は以下の2群に分けました(被験者間実験計画)。両群ともに16人で、自尊感情や信仰心はほとんど同じでした。なお、自尊感情の評定はローゼンバーグ自尊感情尺度(Rosenberg Self Esteem Scale,RSES)によりました。

・ドリフト身体経験(Drifting Body Experience,DBE)群:平均年齢20.1歳
・体外離脱(Out-of-Body Experience,OBE)群:平均年齢20.6歳

まず、両群ともにバーチャル身体の所有感を感じさせるため、全く同じ実験手続きを経験。その次に実験参加者の視点が体外離脱形式に変更されるのも両群で共通(視点がバーチャル身体の背後の天井あたりからになり、バーチャル身体を俯瞰する形)。しかし、DBE群は視運動同期と視触覚同期を継続するのに対して、OBE群は視運動同期と視触覚同期を中止しました。具体的には、DBE群は実際の身体の動きが眼下にあるバーチャル身体の動きと同期し、触覚刺激も眼下にあるバーチャル身体へのボールのヒットと同期させました。一方、OBE群はボールは眼下にあるバーチャル身体ではなく、天井付近で身体、というより参加者の「魂」がありそうな場所にアタック(+実際の身体への振動触覚刺激)し、実際の身体の動作はバーチャル身体に反映されませんでした。なお、DBEだと身体所有感を前にあるバーチャル身体の方に感じることが先行研究で示唆されています。

・心的ボール落下課題(Mental Ball-Dropping task,MBD課題):想像上の林檎が左手から床に落ちるまでの時間を推定。落下時間の推定方法は、想像上の林檎を手から離したときにワンドのボタンを1回押して、床に到着したと思うタイミングでもう1回ボタンを押すやり方でした。1回目の課題(ベースライン)は視運動同期と視触覚同期によるバーチャル身体所有感錯覚の誘導を行った後に行い、2回目の課題は体外離脱形式の視点を導入した後に実施。

・質問調査:身体所有感の質問はベースラインの心的ボール落下課題をした後と2回目の心的ボール落下課題を終えた後に行いました。体外離脱経験に関する質問は2回目の心的ボール落下課題を終えた後に実施しました。最後に、コレット-レスター死の恐怖尺度(Collett-Lester Fear Of Death Scale,CL-FODS)の下位尺度、自己の死(Death of Self)に回答し、死の恐怖を測りました。

実験の結果、体外離脱形式の視点に入る前のベースラインにあたるバーチャル身体所有感は、DBE群でもOBE群でも高く、群間差は検出されませんでした。両群ともにバーチャル身体が自分の身体だという錯覚が強く、バーチャル身体が他者のものだという錯覚が弱くなりました。

体外離脱形式の視点導入後で、DBE群でもOBE群でも体外離脱感や空中浮遊感、部屋の高い位置にいるという感覚、自分の身体が透明だという感覚を感じていました。しかし、DBE群は眼下にあるバーチャル身体の所有感やバーチャル身体とのつながり感覚が高くなりました。一方、OBE群は眼下にあるバーチャル身体が自分のものではなく、他者のもののように感じていました。なお、眼下にあるバーチャル身体とのつながり感覚はバーチャル身体が自分の身体であるという感覚と正の相関関係を示しました(r = 0.67)。

心的ボール落下課題、というよりも心的林檎落下課題の結果では、DBE群よりもOBE群の方が、自分(被験者)が部屋の高い場所にいるという錯覚が高くなりました。つまり、DBE群よりもOBE群の方が、ベースラインよりも林檎が床に落ちるまでにかかる時間が長いと回答しました。

個々の質問項目によって結果は異なりましたが、全体的にDBE群よりもOBE群の方が死の恐怖が低くなりました。OBE群の方が死の恐怖が低かった質問項目として、特に「死ぬともう二度と考えることも何かを体験することもできない」などが顕著でした。一方、「死後の身体の崩壊・分解」や「人生の短さ」という死の恐怖の質問項目は、DBE群よりもOBE群の方が低いというエビデンスが弱くなりました。

なお、無神論者かどうかは死の恐怖の評定結果に影響しませんでした。

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posted by マーキュリー2世 at 22:59 | Comment(0) | TrackBack(0) | 身体心理学(身体錯覚を含む) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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