2016年11月27日

透明身体錯覚でも、身体サイズの錯覚が物体の大きさ知覚に影響する


透明脚の所有感錯覚で感じた身体が大きければ物体が小さく感じ、反対に小さい身体を所有していると感じると物体が大きく感じるという研究があります。身体の大きさ(知覚)が視覚世界の知覚に影響することが知られていますが、それには身体(の一部)が目に見えるものであるという知覚は必要ないということです。

本研究は透明人間錯覚とバービー人形錯覚を組み合わせた実験です。透明人間錯覚については、私の管理する別のブログ『緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー』の記事「透明人間の錯覚で人前に立ってもストレスを感じにくくなる」を、バービー人形錯覚については以下の動画を参考にしてください(この動画のもととなった研究の原典はvan der Hoort, B., Guterstam, A., & Ehrsson, H. H. (2011). Being Barbie: The Size of One’s Own Body Determines the Perceived Size of the World. PLoS ONE, 6(5): e20195. doi:10.1371/journal.pone.0020195.です)。


(URLはhttps://www.youtube.com/watch?v=uhRbAjdEiGw)

van der Hoort, B., & Ehrsson, H. H. (2016). Illusions of having small or large invisible bodies influence visual perception of object size. Scientific Reports, 6:34530. doi: 10.1038/srep34530.

スウェーデン、ストックホルムのカロリンスカ研究所神経科学部門の研究者2名による共著論文です。

研究参加者は健康な成人22名。実験条件は錯覚する身体サイズ(小・大)×視触覚の同期・非同期の4通り。

Oculus社のバーチャルリアリティ用ヘッドマウントディスプレイ(HMD)、Rift(リフト)を被り、3Dの部屋の動画を視聴。

錯覚誘導実験の前に、物体の大きさの推定を要求。実際の物体の大きさは10 cm、20 cm、30 cmの3種類。この3種類の大きさの物体は各実験条件で呈示し、全部で4×3=12通りの実験試行としました。

3D動画でブラシでナデナデする部位は空白空間だったのですが、その位置はそれぞれ左右の下腿(膝から足首までの部分)と左右の足部に対応していました。ブラシは空白空間をナデナデする時のみ参加者の視野に出現しました。小人条件では2 cmの幅のブラシを用い、ベッドから5 cm〜10 cm上部、カメラから50 cm〜80 cmの距離の間でブラシを動かしました。大人条件では10 cmの幅のブラシを用い、床から25 cm〜50 cm上部、カメラから250 cm〜400 cmの距離の間でブラシを動かしました(実際に触覚刺激を与えた身体までの距離よりも、HMDを通して視認した触覚刺激を与えられていると感じた部位の距離の方が短いと小さな身体を所有しているという錯覚が、長いと大きな身体を所有しているという錯覚が生じることが知られています)。

実験は参加者が仰向けの姿勢でベットに横たわっている状態で実施。背面に枕をつけて、頭部が30°起き上がっている状態で実験。実際の参加者の身体をナデナデするブラシの幅は5 cmでした。左右の下腿・足部をナデナデしたわけですが、これらの部位がHMDでナデナデした空白空間に対応しました。実際の身体のナデナデの方向とバーチャルリアリティでのナデナデの方向は同じにしました。

120秒間のナデナデの後にターゲット物体を150 cmの距離に呈示。ターゲット物体が視野から外れた後に参加者は両手で物体の大きさを表現。この時の左手と右手の間の距離を計測し、感じた物体の大きさとしました。なお、参加者はHMDを装着しているため、自分の手を見ることができませんでした。

物体の大きさの推定の後に、(透明)身体所有感錯覚の評価。-3〜+3までの7件法。質問項目は「ブラシが動いているのを見ていた場所から触覚を感じた」「透明の脚を持っている感じがした」「(HMDを通して)目撃したブラシによって触覚が生み出されていると感じた」の3種類。この他に統制質問として、「ブラシが動いているのを見ていた時に、脚の裏側に触覚を感じた」「同時に2つの身体を所有している感覚があった」「身体を感じなかった」の3種類を用意し、課題追従傾向や期待効果の可能性を検証。

実験の結果、小人条件でも大人条件でもターゲットの大きさと距離は同じであるにもかかわらず、大人条件よりも小人条件の方が物体が大きいと推定しました。また、小人条件において、視触覚非同期条件よりも視触覚同期条件の方が、見えない脚の身体所有感が高くなり、物体を大きく感じました。大人条件でも視触覚非同期条件よりも視触覚同期条件の方が、透明脚の身体所有感が高くなりました。しかし、大人条件では、非同期条件よりも同期条件の方が物体を小さく感じました。物体サイズの推定値の差が一番大きかったのは、小人同期条件と大人同期条件の間の差でした。

相関分析によると、透明脚の所有感錯覚が強いほど、身体の大きさ錯覚が物体の大きさの推定に与える影響が大きくなりました(透明身体所有感錯覚を強く感じた人ほど小人条件で物体を大きく感じ、大人条件で物体を小さく感じやすかった)。これは「透明の脚を持っている感じがした」や「目撃したブラシによって触覚が生み出されていると感じた」という質問で顕著で、「ブラシが動いているのを見ていた場所から触覚を感じた」では相関関係が有意とはなりませんでした。この結果の違いは、後者の質問項目で個人差が少なかったからだと論文中で考察されています。

用いた刺激物体の大きさによって、錯覚身体の大きさが物体の大きさ推定に与える影響が違うことはありませんでした。錯覚の統制質問では実験条件による違いが検出されませんでした。

これらの結果は、所有感を感じた透明身体(部位)が大きければ物体が小さく感じ、反対に小さい透明身体(部位)を所有していると感じると物体が大きく感じることを示唆します。客観的、物理的な物体の大きさや物体を呈示する距離は実験条件の間で変えていなかったことから、主観的な身体の大きさ知覚がいかに重要かが窺われます。

関連研究⇒透明人間の錯覚で痛覚感受性が高まる

スポンサードリンク

posted by マーキュリー2世 at 21:54 | Comment(0) | TrackBack(0) | 身体心理学(身体錯覚を含む) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック