2016年08月24日

ウィリアムス症候群の人はキャラ弁が理解できない?

ウィリアムス症候群という障害があります。ウィリアムス症候群とは、神経発達障害の一種で、その症状はエルフのような顔つき(妖精様顔貌)、結合組織異常、心臓疾患、高カルシウム血症などです。特に高い社交性を示すことが知られています。

ウィリアムス症候群の原因は7番染色体長腕(7q11.23)の微細欠失で、特にエラスチン(ELN)遺伝子の欠失が特徴的だとされています。7q11.23領域にはエラスチン遺伝子がありますが、それ以外にもLIMキナーゼ1(LIMK1)遺伝子などもあり、ウィリアムス症候群の病因に関わっているとされています。LIMK1遺伝子欠失は視空間認知障害との関連が指摘されています。なお、視空間認知障害はウィリアムス症候群の症状の1つです。言語能力は比較的高いと言われています。

ウィリアムス症候群の別名はウィリアムス-ボイレン症候群です。濁点を打ってウィリアムズ症候群、ウィリアムズ-ボイレン症候群と呼ばれることもあります。

さて、そんなウィリアムス症候群ですが、彼らは食材で顔を作るタイプの「キャラ弁」を認識するのが苦手であるという研究が発表されました。

Pavlova, M. A., Heiz, J., Sokolov, A. N., & Barisnikov, K. (2016). Social Cognition in Williams Syndrome: Face Tuning. Frontiers in Psychology: Emotion Science, 7:1131. doi: 10.3389/fpsyg.2016.01131.

ドイツのエバーハルト・カール大学テュービンゲン医学校生体医学磁気共鳴研究科認知社会神経科学ユニット、エバーハルト・カール大学テュービンゲン大学病院女性保健研究所女性保健研究科、スイス連邦共和国のジュネーヴ大学心理学研究科児童臨床神経心理学ユニットの研究者による論文です。

ウィリアムス症候群患者20人(女性10人、男性10人)が実験に協力。平均年齢は23.3 ± 10.6歳、年齢の範囲は8〜44歳。定型発達の統制群20人は、ウィリアムス症候群と性別と年齢を1対1でマッチングさせた人が参加。全員視力は正常か、矯正視力で正常な状態。

*ウィリアムス症候群の診断はエラスチン遺伝子の蛍光 in situ ハイブリダイゼーション検査(Fluorescence In Situ Hybridization test,FISH検査)で確認。

実験課題はFace-n-Food task。日本語にすると顔-n-食物課題となります。Face-n-Food課題で用いた写真刺激は10種類で、すべて果物や野菜、ソーセージなどの食材を使って顔のような形にしたものでした。キャラ弁を想像すると分かりやすいと思います。これはイタリアのジュゼッペ・アルチンボルドという画家の作品スタイルと似ています。ただし、実験では刺激写真によって、食物が顔に似ている程度は異なりました。

*ジュゼッペ・アルチンボルドの作品についてはネットで検索してみてください。Google画像検索⇒”ジュゼッペ・アルチンボルド” 

以下は実験で用いた写真刺激の例です。左側が最も顔に似ていない形式で、右側が最も顔に似ている形式の刺激材料です。なお、この画像の出典は"Pavlova, M. A., Scheffler, K., & Sokolov A. N. (2015). Face-n-Food: Gender Differences in Tuning to Faces. PLoS ONE, 10(7): e0130363. doi:10.1371/journal.pone.0130363"という論文です。
journal.pone.0130363.g002.PNG

実験参加者は10枚の写真刺激を1つずつ見て、それらが何の写真なのかを回答しました。回答は顔を見たのか、顔以外を見たのかに分類しました。フィードバックも時間制限もなしの実験でした。なお、写真呈示の順番は最も顔に似ていない食物から順に始め、参加者に最後に見せたのは最も顔に似ている食物写真としました。これは、いったん顔を感じてしまうと、それ以降の食物写真でも顔を感じるというバイアスの影響を弱めるための処置でした。

実験の結果、ウィリアムス症候群の人でも定型発達の人でも食物写真に顔があるように感じられたら、笑顔を浮かべた人や幸せそうな人というように情動的な表現で描写することが多くなりました。

定型発達群よりもウィリアムス症候群群の方が、食物写真の顔類似性レベルが高くならないと顔を感じない結果となりました。具体的には、定型発達群は顔類似性が下から数えて3.95 ± 2.24番目の写真で顔を認識したのに対し、ウィリアムス症候群群だと顔類似性が下から数えて8.18 ± 1.47番目の写真で初めて顔を認識しました(両者の差の効果量はCohen’s d = 2.23)。これは3人のウィリアムス症候群の人を除外した結果です。実は除外されたウィリアムス症候群の人は、本実験では写真刺激に顔を感じることが一度もなく、最も顔に似ている食物写真でさえ顔を認識しませんでした。

上述したように食物写真は10枚あったのですが、そのうち、顔だと認識したのは定型発達群で62% ± 19.89、ウィリアムス症候群群で22% ± 15.1と、ウィリアムス症候群の方が顔と認識する写真の割合が低くなりました(Cohen’s d = 2.27)。

定型発達群では顔類似性レベルが2の段階ですでに40%が顔認識をしていることを示す反応パターンでした。一方、ウィリアムス症候群では顔類似性レベルが6になっても顔認識率は5%でした。ウィリアムス症候群で顔認識率が45%になるのは写真刺激の顔類似性レベルが7になってからでした。顔類似性レベルが7だと定型発達群はすでに顔認識率が95%になっており、これ以降いくら刺激の顔類似性レベルを上げても顔認識率が高まるはずのない限界点に達していました(天上効果)。

最も顔認識率が上昇したのは顔類似性レベルが6から7に上がった時でした。他に顔認識率が上がったレベルは1から2、8から9、9から10でした。レベルが2から3、3から4、4から5、5から6、7から8に上昇する際には有意な顔認識率の向上が認められませんでした。

ウィリアムス症候群において、Face-n-Food課題での顔反応率(顔認識率)と視覚検査成績(スピアマンのρ = 0.352)や精神年齢/発達年齢(ρ = 0.379)、レーブン色彩マトリックス検査(Raven’s Colored Progressive Matrices,Raven’s CPM)得点(ρ = 0.348)との相関は有意ではありませんでした。これらの結果は、ウィリアムス症候群がFace-n-Food課題で顔認識率が低いのは、視覚や非言語的認知機能の障害によるものではないことを示唆します。

*視覚検査は視覚-運動統合テスト(Visual-Motor Integration Test,VMIテスト)の一部、精神年齢/発達年齢は視覚検査の結果で決定。

本研究成果が確からしいならば、ウィリアムス症候群のお子さんをお持ちの親御さんがもし顔を摸したキャラ弁を作っておられるならば、子供がお弁当にキャラクターの顔を認識しているのかどうか再考した方が良いかもしれません。ひょっとすると、キャラ弁が無駄な努力になっている可能性もありますので。ただ、本実験は普段から親しみのあるキャラクターの顔に似せた料理の写真を呈示したわけではないので、顔の馴染みレベルの高低の影響が気になるところです。

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posted by マーキュリー2世 at 14:21 | Comment(0) | TrackBack(0) | 発達心理学・発達障害 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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