2015年12月13日

感謝すると甘い食べ物の誘惑に負けるようになる

感謝すると甘いお菓子を食べる量や選択する量が増えるという研究が発表されました。ダイエットに感謝は大敵というわけです。

細かいことを述べると、自己が他者とは独立していると考えるよりも他者との関係性の中で自己が位置づけられると考えた方が感謝することで甘いお菓子をより多くとるようになる(実験2)、感謝による甘い食べ物への誘惑効果の増大は感謝対象者との類似性を強く感じると顕著になる(実験5・6)、恩義ではなく感謝が重要(実験2)、感謝は食べ物一般への誘惑に負けることを促すのではない(実験3)、感謝は他者とシェアするために食べ物をとる量を増やすのではない(実験3)、感謝で私的自己意識が低下して食べ物の誘惑に負けやすくなるのでもない(実験3)等の結果が得られています。また、感謝対象の人との類似性を感じる→自分は甘味を堪能するに値すると考える→甘いものを多く食べるという媒介過程が得られました(実験6)。

Schlosser, A. E. (2015). The Sweet Taste of Gratitude: Feeling Grateful Increases Choice and Consumption of Sweets. Journal of Consumer Psychology, 25(4), 561–576. doi:10.1016/j.jcps.2015.02.006.

アメリカのワシントン大学フォスタービジネス・スクールマーケティング学部の研究者による単著論文です。

●実験1

大学生99人(女性52%)を以下の情動誘導条件にランダムに割り当て(被験者間実験計画)。

・感謝群:これまでの人生の中で感謝を感じた出来事を書きだす
・プライド群:これまでの人生の中でプライドを感じた出来事を書きだす
・中性群:特性の単語を指定し、自分の経験や思考に沿った場所を記述
*後に情動誘導中に使った感謝語/プライド語・場所関連語をできるだけ多く思い出す課題を実施し、想起した人生経験でどれぐらい感謝やプライド、幸せを感じたか7件法で回答。なお、感謝とプライドを比較したのは両方ポジティブ感情であるとともに、感謝は他者帰属、プライドは自己帰属という違いがあるからです。

次にドイツ発祥の焼き菓子、プレッツェルのチョコ味7つが入った紙コップ、塩味7つが入った紙コップを渡し、残りの実験中はお菓子を食べながらやっても良いと教示しました。残りの実験とはローゼンバーグ自尊感情尺度(Rosenberg Self Esteem Scale:RSES)への回答と研究への関与度の評価でした。

なお、予備実験により、好きな食べ物が塩味の普通のプレッツェルの人よりもチョコプレッツェルが好きな人の方が思いやりの精神が高いと感じられることが示されていました(実験1以外の実験でも似たような結果でした)。

実験の結果、感謝が高い順に感謝群>プライド群・中性群となりました。また、プライドが高い順にプライド群>感謝群・中性群となりました。ハッピーレベルは高い順にプライド群・感謝群>中性群となりました。したがって、仮にプライド群と感謝群で甘いお菓子を食べた量に違いがでたとしても、それはハッピーレベルの違いでは説明できないことになります。

情動誘導条件によってお菓子を食べた量に違いはありませんでした(平均的に4.85個のプレッツェルを食べました)。しかし、感謝群の方がプライド群や中性群よりも多くのチョコプレッツェルを食べました(プライド群と中性群に有意差は検出されず)。なお、性別と摂食制限については統計学的に統制してありました(残りの実験でも同様に統制)。

●実験2

参加者は171人の大学生(女性48%)。以下の実験条件にランダムに割り当て。なお、相互独立的自己観とは欧米で多く見られる他者とは独立した自己の見方のことです。一方、相互協調的自己観とはアジアで多く、自己が他者との関係性の中で成立しているという見方のことです。

・相互協調的自己観+感謝群
・相互独立的自己観+感謝群
・相互協調的自己観+プライド群
・相互独立的自己観+プライド群
*この4つのプライミング手続きの正当性は予備実験と本実験の結果で確認されていましたし、自己観が感謝やプライドに影響しないことも示されました。

初めは自己観のプライムから。相互協調的自己観のプライミングでは「友達」や「いっしょに」などの単語を使って作文。相互独立的自己観のプライミングでは「個人」や「1人で」などの単語を使って作文。この後、「私は…である」という文章で「…」のところに自由に言葉を埋めていく実験。「…」のところに自分中心語を使うか、他者中心語を使うか、集団成員語を使うかを検討しました。すなわち、自分中心語を使えば相互独立的自己観が高い、他者中心語または集団成員語を使えば相互協調的自己観が高いと判断しました。

次が感謝またはプライドのプライム実験手続き。大学卒業をテーマとした広告写真に感謝群なら「サポートがあったからこそ卒業できる、感謝しよう」というキャッチコピーを、プライド群なら「一所懸命頑張ったから卒業できる、誇りに思おう」というキャッチコピーをつけて実験参加者に見せました。その後、感謝(プライド)を感じた出来事を指定した感謝(プライド)関連語を用いて描写してもらいました。

これらのプライム手続きの後、被験者には好きなだけキャンディを選べる機会が与えられました。

実験2の結果、性別や食事制限を統制すると、有意傾向ながら実験1と一致する結果が得られました。すなわち、プライド群よりも感謝群の方がキャンディを多く選択しました。そして、相互協調的自己観を誘導した場合のみ、プライド群よりも感謝群の方がキャンディを多くとっていき、相互独立的自己観の誘導では有意差が検出されませんでした。

なお、感謝群では他者への恩義が増加する可能性が考えられました(恩義とは感謝とは違い他者にお返ししなければならないという感情が含まれることに注意)。本研究では恩義をネガティブな感情、感謝をポジティブな感情としていました。そこで、ポジティブ感情やネガティブ感情、恩義の強さを評定してもらいました。ところが、感謝群は恩義が増加せず、恩義を統制しても結果に変化はありませんでした。なので、恩義ではなく感謝が重要ということになります。

●実験3

実験3の目的は甘い食べ物の選択肢がなければ、感謝で塩味の食べ物を選択するようになるか検証することにありました。さらに相互協調的自己観+感謝でキャンディを多くとっていった(実験2)のは他者と食べ物を共有するからだという解釈も考えられるため、その可能性の検証も実施しました。また、プライドとは違い感謝は他者の行為に帰属する感情なので私的自己意識が低下する可能性があります。一方、私的自己意識は個人の目標を思い起こさせるので、食べ物の誘惑に負けなくなる作用があると考えられます。だとすると、感謝で私的自己意識が低下すれば、食べ物の誘惑に負けやすくなるかもしれず、それが実験結果に影響した可能性がありました。これらの問題を実験3で検証しました。

被験者は299人の大学生(女性51%)。手続きは実験2とほとんど同じ。以下違う点だけ詳述。

実験2ではキャンディでしたが、チップス(ポテトチップスやトルティアチップス、コーンチップスなど多種多様)に変更。これだと甘くありませんから、感謝の効果が甘い食べ物限定なのか分かるわけです。また、感謝(プライド)誘導手続きも少し変更(大意に大差なし)。

チップスをどれだけいっぱい持って帰るかの行動意図、チップスをどれだけ他者と共有するかの意図、私的自己意識を評定。なお、私的自己意識は私的自己意識尺度(Private Self-Consciousness Scale:PSCS)で計測。

実験3の結果、相互協調的自己観を高めた2群の比較ではプライド群よりも感謝群の方がチップス獲得の意図数(どれだけチップスを持って帰ろうか?という考え)が少なくなりました。一方、相互独立的自己観のプライミングをしたらプライド群と感謝群での違いが検出されませんでした。一方、他者との共有意図や私的自己意識では統計学的差異が何も検出されませんでした。

実験3から感謝+相互協調的自己観は食べ物一般への誘惑に負けることを促すのではない(逆に取ろうと思うチップスが少なくなる)ことが示唆されました。また、感謝+相互協調的自己観でも他者と共有するために食べ物をとるのではないし、私的自己意識が低下して食べ物の誘惑に負けやすくなるという説明もできないことが示唆されました。

●実験4

実験4では味を甘味と塩味だけでなく、酸味や苦味を追加しました。また、感謝で他者を肯定的に評価する傾向が強まり、甘い食物を選択するようになるという別の説明の検証もしました。さらに、相互協調的自己観で情動強度(覚醒度)が強まり、甘い食物の誘惑に負けるようになるという説明の検証も実施しました。

被験者は大学生168人(女性42%)。基本的な手続きは実験2と同じ。違いは1.キャンディではなく、チョコレートバーを用い、種類も4タイプ(ストロベリー味・クランベリー味・海塩味・苦エスプレッソ味)用意したことと2.プライムの後に、情動価(valence)や覚醒度(arousal)を評価したこと、3.「他者は優しいと思うか」「他者を信用するか」という他者に対するポジティブ信念を評価したこと。

実験4の結果、有意傾向ながらプライド群より感謝群の方が甘いストロベリー味のチョコバーを選択しました。また、相互協調的自己観を高めるとプライドより感謝の方が甘いチョコバーを選択したのに、相互独立的自己観ではプライド群と感謝群の違いが検出されませんでした。さらに、感謝で他者を好評価するようになったという証拠や感謝が情動覚醒度に影響したという証拠もありませんでした。

●実験5

実験5の目的は感謝対象の人との類似性/差異性知覚が甘い食べ物の摂食量に与える影響を調べることとしました。合わせて、モラルライセンス/道徳認可(moral licensing)による説明を検証しました。モラルライセンスとは良いことをすると、後に悪いことをしてもいいやという風になってしまうことです。実は代理モラルライセンス(Vicarious moral licensing)という現象もあり、今回はこちらの話です。代理モラルライセンスとは他者の道徳的行為の後に悪いことをしてしまうことです。

最終的にデータ解析に用いたのは大学生263人。2(類似 vs. 差異)×2(甘味 vs. 酸味)×2(道楽食 vs. 健康食)の被験者間実験計画。今回は全員感謝を高めました(手続きは実験1と同じ)。自己観の操作はせずに、感謝対象者と似ている点または異なる点を書き出してもらいました(それぞれ類似群、差異群)。その後、食品をもらい、食べ、味などを評価しました。甘味×健康食群は干しぶどう(レーズン)を、酸味健康食群はクランベリーを、甘味道楽食群はスイートチェリー(甘いサクランボ?)を、酸味道楽食群はサワーチェリー(酸っぱいサクランボ?)です。

実験操作のチェックで類似性知覚(vs. 差異性知覚)や感謝がきちんと誘導されていることが確認されました。食品の評価では健康食より道楽食の方が健康度が低く感じられました。甘味と酸味も実験者が意図した通り、味覚評価に違いがでました。道楽食でも健康食でも酸味群よりも甘味群の方が甘さが高く評価されました。

また、類似性知覚が高い群で酸っぱい食品よりも甘い食品を多く食べました。一方、差異性知覚が高い群では有意差が検出されませんでした。他方で、食物が道楽食か健康食かは実験結果に影響しませんでした。したがって、代理モラルライセンスによる説明は排除されました。というのも、もしも代理モラルライセンスが成立するのならば、感謝する際に他者の道徳的行動を思い出すことで道楽食の消費量が増えることが予想されたのに、そうではなかったからです。

●実験6

実験6の目的は感謝による甘い食物の摂食量の増加を媒介する要因に自分が甘い味を堪能するに値するからと感じることがあるかどうかを検証することとしました。

被験者は大学生87人(女性51.7%)。

ランダムな群の割り当ては2(類似 vs. 差異)。感謝の誘発は全員。これらの手続きの後、スターバーストキャンディを4つもらい、食べて、味などを評価しました。また、色んな質問の中に自分は甘味を堪能するに値するか?という質問項目を埋め込みました。なお、スターバーストキャンディは甘くて道楽的な食品であると評価されました。

なお、実験5とは違って、類似性(差異性)知覚の評価はInclusion of Other in Self(IOS)尺度でも行い、実際に実験操作の効果が確認されています。IOS尺度とは2つの円の重なり具合から他者との親密性を測る尺度のことです。

実験6の結果、感謝対象者と自分の類似性を強く感じている人は感謝の気持ちが高いとキャンディを多く食べました。また、差異性知覚を高めた群よりも類似性知覚を高めた群の方が自分は甘味を堪能するに値すると信じていました(他の質問項目は群による違いなし)。さらにブートストラップ法による媒介分析で類似性知覚(vs. 差異性知覚)→甘味を堪能するに値するという信念→キャンディの摂食量という媒介関係が成立しました。

関連記事⇒手を洗うと嗜好食品を選択するようになる

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posted by マーキュリー2世 at 20:23 | Comment(2) | TrackBack(0) | 社会心理学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いつからかはわかりませんがこの一年まったくお菓子というものに興味がありません。
飴玉を舐めるのも苦痛です。
料理に砂糖醤油はたまに使います。お菓子売り場?ケーキ屋さん?です。ガムも、、
口腔内セネストパチーなので紛らわせるためにいつも噛んでいるんですけど、、
甘いので噛みはじめは違和感があります。

Posted by 松鷹妙子 at 2016年05月14日 22:32
松鷹さん、コメントありがとうございます。

私はお菓子に興味が全くないというわけではありませんが、子供の頃などと比べるとほとんど食べなくなりました。誕生日などにケーキを食べるくらいです。
Posted by マーキュリー2世 at 2016年05月14日 23:45
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